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物々交換

今日のSOS団は少し異様だ。
なにせみんなそろいも揃って編み物なんぞやっているからだ。
え?なんで編み物かって?家庭科の授業で出た課題さ。提出期限は2週間後。
そんなもの男にやらせて何が楽しいのかね、役に立つ日は来るのかと思いつつも放課後にはすっかり忘れていたのである。
その日は特段変わったこともなく、あ、そういえばハルヒはめずらしくも用事があるから先に帰る、と団活は欠席したっけな。
団長抜きの4人で長い坂を下りて各々岐路に着き、家に帰ってからも課題のことなんて思い出すわけでもなく次の日を迎えたわけだ。
そして冒頭の今日に戻る。
午後の授業も終わって、さあ部室にでも向かおうか。と思い席を立ち上がったところ
俺の後ろに陣取っているハルヒが「先に行ってて!」と教室をロケットのように飛び出して行った。
あのエネルギーは一体どこから湧き出てくるのだ。
そんなことで一人部室に向かうとハルヒ以外の面子はすでに揃っていた。
存在だけで心のオアシスになる朝比奈さんがいつものようにお茶を淹れてくれる。
「今日は凍頂烏龍にしてみました。お口に合うといいんですけど~。はい、どうぞ」
俺はお礼を言いつつ一口いただく。多分どんな出がらしでも美味しく淹れる魔法をお持ちだろうあなたが直々に淹れてくださったお茶が美味しくないわけありません。
長門は言わずもがな今日も絶賛読書中だ。今日はまた凶器にもなりそうなくらい分厚い本だな。
まさか広辞苑とかの類ではないだろうな?
「…………広辞苑」
そうか。まあその類の本、と呼んでいいのか?は眺めているだけでも面白いよな。
そして古泉は俺が来るのを待っていたかのようにトランプをシャッフルしている。
「たまには神経衰弱でもしませんか?」
ボードゲームも1周したしな、たまにはこういうシンプルなゲームでもやるか。
とまあ、そんな感じでいつもの団活が始まったわけである。

平和な時間がほんの少し過ぎたときに嵐はやってきた。もちろんハルヒである。
口と手が同時に動くってことはまさにこのことだ。扉を開けたと同時に
「おっまたせー!」と気分上場で飛び込んできた。
そのまま団長席の方へ来ると、手に持っていた紙袋をバン!と団員使用の長机の上に置いてこう言ったのである。

「みんな、編み物をするわよ!」

そう言ってハルヒは袋の中身を机の上にばら撒いた。
お、おい!神経衰弱中なんだけど!!
「うっさいわね!あんた昨日の家庭科で課題が出たの覚えてる?」
「課題?」
そのとき俺はすっかり忘れていたわけさ。
「やっぱり忘れてたわね。みんなで編み物大会をして課題を仕上げようと思ったのよ」
「そういえば僕のクラスでも編み物の作品提出の課題が出されましたね」
ほう、そうなのか。そうしたら長門も同じか?
「私のクラスも出た」
「でっしょ?古泉くんも有希も、もう作るもの決まってるのかしら?昨日の今日だから何にも準備してないと思って団長直々に用意してあげたわ!」
「そういえばわたしも去年の課題で提出しましたよ~」
「みくるちゃんは今編んでるのがあったわよね。んじゃそれを課題とします」
「はあ~い」
朝比奈さんは個人的に編んでるだけじゃないのか?
「涼宮さんの陣頭指揮の下、みなさんで課題をやるなんてなかなか楽しいじゃないですか」
古泉の言うとおり、まあ一人寂しくどうしたらいいのかわからない課題を手に真っ暗になってるよりかはマシか。
さて、団長様はどんなものを用意してくれたのかね?できれば簡単かつサクッと終わるようなものがいいんだが。
俺が横着な考えを巡らせているそんな横でハルヒは意気揚々と資材を配給し始めた。

「キョンはこれを編みなさい」
とハルヒが俺に押し付けてきたものをご紹介しよう。
白色の毛糸2玉にかぎ針という編むための棒、それと編み図が印刷されている紙だ。
言っておく。俺は生まれてこのかた、編み物などしたことはない。
よってこの編み図は何かの暗号にしか見えないわけだ。

結局この日は初心者2人への編み物レクチャーで終わってしまった。
もう一人?それが以外にも長門である。
古泉はどこで習ったのか知らんが「僕、意外と器用なんですよ」と言いながら一人作業に取り掛かっていた。

次の日からの団活は「SOS団」改め「編み物団」に改名した方がしっくりくるんじゃないかと思うほど全員で編み物をしている。
ひたすら黙々と黙ってだ。

ここで各人の作成物を見てみよう。

まず目の前にいる長門。
こいつ初心者だよな?俺と一緒にハルヒと朝比奈さんからレクチャー受けたよな??
と錯覚するほど恐ろしいスピードで手を動かしている。
何を作ってるのかを聞いたら
「ニットワンピース」とこちらを見ずに答えてくれた。その間もどんどん水色の毛糸が形を成していく。
学園祭のギターといいコンピ研とのゲーム対戦といい万能選手だな。いっその事自分でアパレルブランドでも立ち上げて商売でもしたらいいんじゃないか。

その長門の横でメイドさんのコスプレをし、ちまちまと手を動かしている朝比奈さんは手袋を編んでいるそうだ。
「この前マフラーを編んだので今度はお揃いの手袋を作ります。桜色なの、可愛いでしょ」
土台が可愛いとアイテムはより映えますよね。出来上がりが楽しみです。

俺の横で優雅にグレーの毛糸を編み出している古泉は
「いくら器用といってもセーターなどの大物は無理ですので、シンプルにマフラーでも作ろうかと思います。ちょうど欲しかったところですし」
と爽やかにっこり、いやニヤニヤ古泉スマイルを浮かべて言っていた。

そしてこの会の主催者でもありSOS団の団長であるハルヒは古泉と同じくマフラーだそうだ。
あれ、こいつの毛糸、俺と同じじゃないか?

ちなみに俺は自分が何を作っているのかわからないのである。
情けないが、ハルヒから押し付けられた編み図の指図されるままに作業をしている。
まあなんだ、出来上がってからのお楽しみってやつか。そう思うことにする。

もうかれこれ14回は編み直したのではないのだろうか。
基本的に1つの編み方を編み図に従って進めていけばいいのだが、そこは人の手で作業しているわけで。
書かれたように編んでも、きつめで進めるのと緩めで進めるのでは出来上がりに差が付く。
俺が渡された説明書には、ご丁寧に「ここまで編んだらこの大きさですよ」というガイドが付いているのだがこれに合わせるのがなかなか難しいのである。
しかも上手くいった!と調子に乗り進めていくと余分に1段編んでしまったり、その逆もしかり。
一気にやる気を無くすのは、かなり進んだところで目が多かったり少なかったりを発見してしまったときだ。
そんなことを繰り返して繰り返して一週間ほど。見えなかったゴールが目前にやってきたのである。
ま、さすがにその頃には自分が帽子を編んでいるってわかったけどな。

何度もやり直して出来上がった感動はなにものにも変えられない。やっと完成したのだ。
しかし俺はそこで重要なことにやっと気がついた。この帽子、女物じゃないか?
そう、初めに渡された編み図には完成図が描いてなかったのである。よく見たらサイズもだ。
試しに自分でかぶってみたが小さくてかぶれない。おいおいおい、せっかく作ったのに自分で使えないじゃないか。

「あら、キョン。できあがったの?ちょっと貸してみなさいよ」
とハルヒは俺の手から力作をひったくり頭にかぶせた。おお、見事にぴったりだ。
「どうかしら?ちょっとみくるちゃん、鏡持ってない?」
はいはいどうぞ~と朝比奈さんはハルヒに手鏡を渡す。メイドさんの格好しているからか妙に行動が似合っている。
「うん、可愛いじゃない!!」
「これはこれは。ぴったりですね、よくお似合いですよ」
こら古泉、あまり誉めるな。調子に乗ったハルヒに持っていかれちまうだろ、俺の力作が。
「やるじゃない、キョン。せっかくだからあたしが貰ってあげるわ!」
あのな、貰ってあげるわ。じゃなくて初めからそのつもりだったんじゃないのか?
「何か言った?まあ貰いっぱなしじゃ、あんたに悪いわよね。じゃあ、キョンにはこれをあげる」
ハルヒはそう言って俺の首に自分で編んだマフラーをふわりと巻きつけた。
「あ、でも提出して返却されてからよ。ってそうよ!今から先生のところに行って採点してもらいましょう!」
返事も聞かずにハルヒは帽子をかぶったまま部室を飛び出していった。やれやれ。
そんなこんなでSOS団みんなで職員室に押しかけ、その場で課題提出済のお言葉を頂き、晴れて俺とハルヒが作製したものは交換して各々の物となったわけである。
余談だが、どんなものでもきちんと自分で作成して提出すれば通信簿に5をいただけるということらしい。
ということは鍋敷きとかでもいいのだろうか。

ハルヒは俺の編んだ帽子がえらく気に入ったらしく、帰り道もずっとかぶっている。
いくらなんでも制服に帽子は変なんじゃないか?
「いいじゃない。あたしはこれが気に入ったの。いーい?キョン。そのマフラーはあたしが編んであげたものなんだから大事に使いなさいよっ!」
ビシッと指を突きつけて偉そうに言う。
成り行きはどうであれハルヒが編んだものだ、嬉しくないはずがない。
「ああ、ありがとな。大事に使わせてもらうよ」と思わず口元がほころんだ。
するとハルヒはアヒル口になり、ふんっ!と照れ隠しをするかのようにずんずんと歩いていってしまった。

次の日、学校で谷口と国木田、特に谷口に俺のマフラーの出所についてしつこく聞かれたのは言うまでもない。
なぜって?それはハルヒが休み時間に教室でも作業をしていたからさ。

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