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決戦前夜

 窓の向こうには漆黒の闇が支配する大宇宙。
 大気の存在する地上から見上げる空とは違いきらめく星の一つも見えない。じっと見つめていると此処が一体何処だか分からなくなる感覚に支配されてしまいそうだ。
 コンピ研連合との決戦前夜、しばし与えられた休息を艦長室に設えられた座り心地の良い椅子に身を深く沈めて目を閉じ過ごす。

 しばらく続いた静寂を無機質な機械音が打ち破る。まったく、人がまったりとしてるときになんだよ。
 シカトしてもいいがあんまり度が過ぎると部下が部屋まで押しかけてくるに違いない。仕方なしに俺は手元のサウンドオンリースイッチをオンにした。
「な『こらー!キョン!!音声通信だけってどういうこと!?』
 うわっ!耳を劈くやかましい音割れした声がスピーカーから聞こえてきた。
 ハルヒか。
 はいはい、すみませんね、音声だけで。心の中でごちながら俺はサウンドオンリーを解除する。そこにはご立腹のハルヒが。
『ちょっと、キョン。いい度胸してんじゃないの。仮にもあたしは閣下と呼ばれる立場なのよ。ありがたくご尊顔を拝する気持ちでいて欲しいわね』
「なんだよいきなり。直接通信してくるならプライベート回線使えよ。部下からの呼び出しかと思ったぜ」
「うるさい。あたしは公私混同なんてしないの。今から最終ミーティングするからあたしの艦に来なさい。30秒でね!」
「ちょ、休めって『ブチッ』」
 言ったのはおまえじゃないかよ、最終ミーティングは今夜やるんじゃなかったっけ。
 しかし、いきなり呼び出しておいて30秒で来いなんて相変わらず滅茶苦茶なやつだぜ、まったく。

 俺は部下に回線をつなぎ、これからハルヒの艦艇まで出かける旨を伝え部屋を後にした。

「おっそーい!相変わらず最後じゃない。何やってんのよ!」
 赤を基調としたハルヒの艦艇の中心部にある艦長室へ一歩踏み込んだ途端にこれだよ。
「帰ってきたらゴハン、奢りだからねっ!」
 と目をキラキラさせてビシっと俺に指を突きつけてくるハルヒの方が高給取りじゃねーか。自分よりも安月給の人間にたかって楽しいのかね、まったく。
 ハルヒの周りには既に集まり、くつろいでる他のメンバーが。
 紹介しよう、中心に我がSOS帝国の一番偉い人、涼宮ハルヒ閣下。その両脇に座っているのが古泉一樹幕僚総長、長門有希情報参謀。そして、ここは軍艦ですよね?一瞬この場所はどこかと疑ってしまうほど場違いな可愛らしいメイドさんが朝比奈みくる補給部隊長、だ。
 因みに俺は作戦参謀という役職についている。
「はい、キョンくん。お茶をどうぞ。涼宮さんのお部屋、いいお茶がいっぱいあるんですよ~」
 まさに戦場の花と言えようメイドな朝比奈さんが俺にお茶を淹れて下さる。味の決め手は茶葉の良し悪しより淹れる人の腕だと思いますよ、俺は。
 
「で、スケジュール前倒しで呼びつけておいてなんだよ。何か緊急事態でも起こったか?」
 俺は朝比奈さんの淹れてくれたお茶を片手に持ちハルヒへ問いかける。
「緊急事態が起こったらこんなにのんびりしてないわよ。久しぶりにみんなと会えるし気分的に早く片付けちゃおうと思ってね、それだけよ」
 はい?それだけですか。
「しっかし、あんたはいつも最後に登場するわねえ、他のみんなを見習いなさいよ」
「あのなあ、ハルヒ。おまえいつもみんなが揃ってから俺に連絡してないか?」
「何言ってんのよ!いつもあんたから連絡してんのよ!」
 喧嘩に発展しそうなところで、ハルヒ曰く気の利く古泉が
「はいはい、痴話げんかはそのくらいにして明日の最終プランをおさらいしましましょう」
 と話を軌道修正してきた。あのな、痴話げんかってなんだよ。
 
「おほん、そうね。ではキョン作戦参謀、明日のプランAの資料を」
 まったく。お前から仕掛けてきたんだからな、と口にすることなく俺は目の前に映し出されているモニターを操作しプランAの資料を呼び出した。
 
 数ある今回のプランを片っ端からおさらいし、軽い疲労感を覚えた頃
「まあ、こんなところかな。作戦の変更については随時ハルヒから指令を頼む。俺はそのたびに細かい修正するから。あまり 無茶苦茶なことだけはやめてくれよ」
「む~、いつあたしが無茶苦茶なことしたですって?」
「そんなのいつもだろ、まったくこき使われる方の労力も少しは考えて欲しいぜ」
「なんですってえ~!」
「まあまあまあ、痴話げんかは僕達が帰った後にでもしてください。閣下」
 またしても古泉が割って入ってくるのだが、痴話げんかネタはもういいから。
 
「まあいいわ。それではあたしからみんなに最終命令を出します」
 居住まいを正したハルヒの瞳には決意の意思が浮かび
 
「絶対、絶対!みんな戻ってくるのよ。1人でも欠けたら承知しないからね。命令よ!」
 
 そう何が何でも守らなくてはいけない命令を俺達に下した。
 
「はい、じゃあこれで最終ミーティングを終了します。明朝08:00、各所定の位置に就くこと。遅刻は厳禁だからねっ!解散!!」
 というハルヒの号令でミーティングは終了。
 
「それでは、僕は失礼させていただきます。お互い健闘を祈りましょう」
 古泉は何か含むような爽やかな笑顔を浮かべ颯爽と部屋を後にする。その後に長門と朝比奈さんも続く。って朝比奈さん、まさかその格好で帰るんですか!?
 そう思ったところで、このところ彼女の軍服姿をモニター越し以外で見たことがないのを思い出す。
 艦長室のドアが閉まろうとするのを見つつ、さて、これで夜の予定は丸々空いたから明日に備えてさっさと寝るか。と頭にプランを立て俺も艦長室を後にしようとした。
 俺は艦長室の扉へ向かって一歩踏み出したところで後ろに何か力を感じた。
 
 後ろを振り返るとハルヒが俺の軍服の背中の部分を掴んでいる。
 その顔に浮かべている表情に先ほどの威勢のよさは微塵も感じられない。
 
「どうした?」
 問いかけても無言で俺の軍服を掴み、たたずんでるハルヒがそこにいる。
 
 しばらく肩越しにハルヒを見ていたが、俺は向きを代えハルヒと正面から向き合った。
 瞳を覗くといつものキラキラした輝きはどこへやら。代わりに深いところで気持ちが揺らいでいるように見える。
 そんなハルヒをほっといて自分の艦へ戻る気もさっぱり起きず、俺は先ほど自分の頭に立てたプランの変更を始めた。
 
「ミーティングが前倒しになったおかげでこれから時間があるんだが」
 飯でも食うか?と続けようとしたところ、今まで黙っていたハルヒが俺に抱きついてきた。
 胸に飛び込んできた小柄な身体を抱き返すと、心なしか震えていることに気付く。
 
 そうだよな。部屋を出たらSOS帝国の閣下と呼ばれる立場だがその中身はただの17歳の女の子だ。
 コンピ研連合との決戦前夜に少しくらい弱いところを見せる相手がいないとやっていけないだろう。
 やれやれ、去り際の古泉の含む笑顔はこういうことか。
 
「ハルヒ。俺は、いや俺達は何があってもおまえのところに戻ってくるから。心配するな」
 声に誓いをこめて胸の中にすっぽり納まっているハルヒに囁く。
 
「ホント?」
 先ほどの表情よりも元気になったであろう声色でハルヒが聞いてくる。
 
 俺は返事の代わりにハルヒを抱きしめる自らの腕に力を入れた。
 大丈夫、俺はおまえと一緒にいたいんだよ。他の団員もそう思ってるに違いない。
 いつもとんでもない行動に振り回されっぱなしで、もうやめてくれ!と心の底から思ったって最後には楽しかったと思っている自分がいるんだから。
 
 明日の開戦準備に間に合うように艦に戻ればいい。
 ミーティングが前倒しになったおかげでまだまだ時間はある。
 ハルヒの気が済むまで今夜は付き合ってやろうじゃないか。

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Author:R254
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