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天の川

 7月6日 23時30分。
 もうそろそろ寝ようかな、と思っていたところに机の上に置いてある携帯電話が存在をアピールするかのように音を鳴らした。
「こんな時間に誰だよ、一体」
 着信元を見ると「涼宮ハルヒ」
 これは嫌な予感。今からちょっと来なさい !とか言われるんじゃなかろうか、予感が現実にならないように祈りながら俺は通話ボタンを押した。


「遅い! 罰金!!」
 到着した途端、呼び出した張本人は俺に向かって人差し指を突きつけ目をキラキラさせながらそう言い放つ。

 待ち合わせ場所に指定されたところはいつもの駅前ではなく桜並木のある土手。
 見事に予感が現実になっちまったわけだ。

「あれ? 朝比奈さんたちはどうしたんだ?」
 確か電話口でハルヒは「SOS団臨時集会だからね! 今から5分で桜並木の土手まで来なさい。いいわね!」と言っていたはずだ。
「あんたに電話をかけた後にね、他のメンバーにも電話したらみんな出ないのよ」
 もう、明日の部活で団長からの連絡はぜーったいに見逃さない事ってみんなに周知徹底しないといけないわ。なんてブツブツと文句を言っているハルヒに俺はありきたりの質問を投げかけた。
「こんな夜中に何の用だ? しかも今何時だと思ってるんだよ」
 ってかおまえ、この時間にここまで一人で、しかも歩きで来たのかよ。
「そうよ」とあっさりと言ってくれる。
「おまえなあ、仮にも女だろ。危ないってうわっ!」
 説教モードにスイッチが入りそうになったとき、ガサガサという音と共に俺の視界が急に真っ暗になる。

「今日は何の日かしら?」
 ハルヒのセリフと共に急に目の前が開けて、表れたのは端正なハルヒの顔。
「おわっ!」近いって!
 俺が後ずさるよりハルヒの顔が離れる方が早く、そのハルヒは改めて左手に持っている何かを俺に突き出してきた。

「笹?」
「そうよ。笹よ」
 今日は何の日かしら? と今しがたのハルヒの問いかけが頭に蘇る。ああ、今日は
「七夕か」
 俺の回答に満足したのか、みるみるうちに瞳に天の川のような輝きが灯る。

「本当は今日の部活で短冊にお願い事を書こうと思ったんだけどね。今年は誰よりも早く七夕一番乗りがしたかったのよ」
 笹を片手に持ち、がさがさと揺らしながら不満そうに言うハルヒを眺めながら俺は、まったくもってハルヒらしい考えだと思う。
「でもあたしとあんたしか集まらなかったから他のみんなに抜け駆けして願い事を吊るすのはやめておくわ。こういうのはみんなでやるのが楽しいのよ」
「なんだよ、それじゃあ俺は来ただけ損じゃないか」
 ハルヒに呼び出されてからここに辿り着くまで20分はかかっているのだ、その間に中止と連絡をくれればよいものを。
「だめよ、それじゃあたし一人で帰らなきゃいけないじゃない」
 やれやれ、一人でここまで来たのはどこのどいつだよ。

「とにかく、夜も遅いから帰るぞ。送っていってやるから後ろに乗れ」
 そう言ってハルヒを自転車へ促そうとしたところ
 せっかく七夕になったばかりの夜に来たんだから織姫と彦星の、年に一度の逢瀬でも鑑賞しましょうよ。
 なんて言いながらさっさと自転車とは逆の方へ歩いていってしまった。

「さすがにこんな街中じゃ天の川は見えないわね」
 俺が横に並ぶと同時にハルヒは空を見上げながらそう呟く。
「案外この付近も暗いけどな、山の上でも行かなきゃ天の川は見れないだろ」
「キョンは見たことある? 天の川」
 そう問いかけるハルヒに視線を向けると、その視線に気が付いたのかハルヒと目が合った。
「おまえはないのか?」
 問いかけに問いかけで応えるとハルヒは視線を空へと戻し
「残念ながらないのよ」と心底残念そうに言う。
「そうだな、綺麗だぞ。頭を上に向けたらそこには星がぎっしり詰まっていて見ていると空に吸い込まれちまう感覚だよ」
 外灯やら店の照明やらがなければここからでも見えるかもな。
「そうね、町中の電気が一斉に消えでもしたら満天の星空と天の川が見えるのかしら」
 何気ないその一言を横にいるハルヒが発したとき、急に目の前が真っ暗になった。

「うわっ」
「きゃっ!」

 まさか。

 隣にいるハルヒへ視線を移すも急に真っ暗になったせいか目が慣れず気配しか感じられない。
「ハルヒ?」
 ハルヒの気配へ言葉をかけると返事の変わりに腕をつかまれた。
「ちょっと何なのかしら」
 めずらしく声に不安な色をのせて、まるで不安を人の体温で和らげるようにつかまれた腕に寄り添うようにハルヒの距離が近くなる。

「上」
「え?」
「空を見てみろよ」

 隣に寄り添うハルヒに俺は空を見上げるように促す。
 見上げた夜空には先ほどまではなかった星々が浮かび上がり、暗闇に目が慣れてくるとそこには淡い光が夜空を横切る姿がはっきりと浮かんでくる。

「やだ……、もしかして天の川?」
 もしかしなくてもそのようだ、まさかこんな街中で拝めるとは。
 こいつのトンでもパワーもたまには面白い方向へ働くものなんだな。

 急に現れた天上をかける星の洪水に、息を呑むハルヒの腕を掴む力が軽くなる。
 離れていく体温が惜しく思うのはなぜだろう。
 力が抜けた自分のより一回り小さいハルヒの手を思わず取ってしまったのに軽く驚きつつ、でもこの手を離したくない気持ちに口元に苦笑が浮かぶ。
 まったく、俺は一体何を考えているのかね。

 右手にハルヒの手の温もりを感じながら、お互い言葉もなく散らばる星の絨毯を見上げ続ける。沈黙を破ったのはハルヒであり
「なんだか知らないけどすごいもの見ちゃったわね!」
 と、その言葉とともに繋いだ手に力が入る。

 ハルヒは知らないだろうが、おまえといるとすごい体験ばっかり出来るんだ。
 だがな、俺や朝比奈さん、長門に古泉ばかりにこんな面白体験させないでたまには自分自身でも楽しんだほうがいいんだよ。
 そうすれば世界は安泰、古泉の寝不足も解消される。
 いいや、そんなこと本当はどうだっていいんだ、俺はおまえ抜きで楽しむのにもう飽き飽きしたんだ。

 俺は繋いだ手に軽く力を入れて歩き出す。
「今年の夏合宿は山だ。山。みんなで寝転がって飽きるまで見ようぜ、天の川」
 一歩後ろを歩くハルヒが微笑んだような気がして、その瞬間俺の手からハルヒの手が離れてかわりに腕に重さがかかる。
「たまにはキョンもいい事言うじゃない」
 視線を右に向けると今の空に負けないくらいの笑顔のハルヒがそこにいる。

「明日は学校だからな。そろそろ帰るぞ」
「うん」
 腕に回された手が俺の腰に回されるのをなんとなく嬉しく思う自分に心で苦笑いをしながら満天の星空の元を自転車で走り出す。
 たまには夜中に呼び出されるのも悪くはない。

 そんな七夕の夜。

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